お口のケアはウイルス感染の水際対策

ウイルスの感染は鼻と口と目の粘膜から起こります。例えばインフルエンザウイルスの場合、お口の中が不潔だと、感染リスクが高まるという研究結果が報告されています。それはなぜか?実は、お口の中に潜む細菌が出す蛋白分解酵素が、ウイルスの粘膜細胞内への感染を促してしまうからです。特に歯周病菌は強力な蛋白分解酵素を使って、細胞壁を次々に破壊し、ウイルスの侵入を助けてしまうので注意が必要です。お口を清潔にし、健康に保つことは、ウイルス感染の水際対策です。うがいだけではなく、歯磨きなどによるケアを実践してください。さらに舌の表面の白っぽく付着する舌苔(ぜったい)を取り除くこともお勧めです。

ウイルス感染に対する有効な対策は、体の免疫力を高めておくことです。しかし、お口の中が不潔だと免疫力が低下してしまう恐れがあります。免疫力と密接なかかわりを持っているのが腸内細菌です。腸内細菌のバランスが崩れると、感染症にかかりやすくなったり、様々な病気を発症しやすくなったりすることが知られています。腸内細菌のバランスを崩す原因のひとつにお口の中の細菌があげられます。それらが だ液や食べ物と一緒に食道や胃を通って腸内にたどり着き、腸内細菌のバランスを乱してしまうと、全身疾患発症の原因となることがわかってきました。

皆さんは誤嚥という言葉を聞いたことがありますか?食べ物やだ液が本来送られるはずの食道ではなく、誤って気管に入ってしまう現象で、中高年の方に多くみられる傾向があります。この誤嚥が起きた際、お口の中が不潔だと、たくさんの口腔内細菌が肺にまで達してしまい誤嚥性肺炎を引き起こしてしまうことがあります。また、歯周病菌や歯茎の炎症によってできた炎症性物質が血流に乗って全身を駆け巡ることで、体のあちこちに炎症を起こします。その結果、体の免疫機能を乱し、ウイルス感染による炎症が進みやすくなる場合もあるので注意が必要です。

お口の免疫ではIgAという抗体が働いて、体に害を及ぼす細菌やウイルスを排除しています。しかし、お口の中が不潔だとIgAによる防衛が困難になってしまいます。またお口の細菌は非常に多く、体を守る働きを示すものもあれば、歯周病菌のように悪さをするものもあります。そして、細菌の塊である(プラーク)は、歯磨きなどでしか おとせません。ウイルス感染の予防には、お口や全身の免疫が十分に働くようにしておくことが重要です。丁寧な歯磨きを中心としたセルフケアと歯科医院でのPMTCで清潔なお口を保ち、感染症予防に活かしましょう。